僕たちは短い言葉を少しだけ交わした。

僕たちは短い言葉を少しだけ交わした。

皆さんは何を思うのか。
デザイナー亡きブランドに。

僕らはこの事実をどう受け止めれば良いのか。
 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


聞きたかったことは一つだけだった。

【ずっとこの物作りを続けていって、新しいものは生まれるのですか?】

それは大昔の洋服を復活させるという
大仰なコンセプトに対して。
既にあるものを作り直す行為に。
その意図に。

そうするとデザイナーは少し怪訝そうな顔をして

【僕はこの先も自分が作ったものをアップデートしていきます。
その洋服をただ手にしてもらいたいです。】

その時の彼の顔が忘れられなかった。

しかし、そんな疑問も徐々に薄れていく。
手にしたアイテムはただ、古いものをリプロダクトしたものではなかったからだ。

ゆっくりと咀嚼するように。

数多の作り手がもとにした。

どこかで見たことあるような洋服の。

どこにもない作り手の思いを感じはじめたところだった。

見れば見るほどに。
手にすれば、するほどに。
名もなき名作に対する、熱い思いが洋服から手に伝わって来るのだ。

 

 

 

  

 

 

 

 


そして、その知らせはショールームの方とデザインチームの方から聞いた。

矢継ぎ早に伝えられた内容を反芻しながら。

喉の奥が熱くなった。

飲み込んだ固唾は苦く。

ああ、これはよく知っている現象だ。

悔しさを感じたときに悔しいと言えずに。
やるせない感情をぐっと堪える。
途方の無さを感じた瞬間。

後悔という名の。

今、思えばもっと話しを聞きたかったと思うし
それ以上に伝えたいこともあった。
あなたの言いたかったことがわかる様になってきたと。

そこでまた彼の顔が浮かぶ。
すると画面にして2スクロール以上の言葉が溢れ。
埋めてみたが、見返してみて。すぐに全部消去した。

もう勝手なことを言うのはやめようと思った。

ただ、いまはひたすらにデザイナー・髙橋 大河氏が残した洋服を伝えていきたいと強く思う。

髙橋氏のブランドはチームが引継ぎます。

デザイナーが残した膨大なヴィンテージアーカイヴと数千のメモ書きをもとに。

だから嘆き、憂うのは今日で終わりにしようと思う。
故人が残した洋服が僕らのそばにはあり
その意志はこれからも脈々と受け継がれていくのだから。

 

Taiga Takahashi